【ミルトンの『失楽園』】大天使ルシファーはなぜ神に反逆して堕天使となったのか?聖書のスピンオフとなる天地創造の前日譚!

哲学×宗教

今回は「ジョン・ミルトンの『失楽園』」について解説したいと思います。参考文献は『ドレの失楽園』(翻訳:谷口江里也さん)です。

【ミルトンの『失楽園』】大天使ルシファーはなぜ神に反逆して堕天使となったのか?聖書のスピンオフとなる天地創造の前日譚!

パズドラをしたことがある人なら誰でもご存じの天ルシと堕ルシ、

なぜほかの天使たちはそのまま登場するのにルシファーだけ光と闇がいるのでしょうか?実は大天使ルシファーが神に反逆して地獄に堕とされた(堕天した)というエピソードは、聖書ではなくミルトンの『失楽園』による影響が大きいのです。

著者のジョン・ミルトンはイングランドの詩人です。ロンドンの裕福なプロテスタントの家庭に生まれてケンブリッジ大学を卒業しました。

1642年に清教徒(ピューリタン)革命がおこると国王チャールズ1世の処刑に賛成して、革命家オリバー・クロムウェルの秘書官として活躍しました。しかし、クロムウェル亡き後に逮捕されて獄中生活を送ることを余儀なくされます。そして、40代で失明するものの口述筆記によって『失楽園』を完成させるのです(「べらぼう」に出るはずの滝沢馬琴も口述で『南総里見八犬伝』を完成させました)。

もしかしたら、当時の王政や社会に対するミルトンの反抗心のあらわれが堕天使ルシファーを誕生させたのかもしれません。ピューリタン文学の最高峰とよばれるミルトンの『失楽園』―ぜひ、動画を最後まで見て頂きこれを機に『失楽園』を教養として身につけてください。内容がわかりやすかったと感じた時にはぜひ高評価&チャンネル登録をお願いします。

1 『失楽園』の概要

『失楽園』は1667年に刊行されたルネサンス期を代表する壮大な叙事詩でダンテの『神曲』と並ぶキリスト教文学の金字塔です。『失楽園』は神に反逆して地獄に堕とされた堕天使ルシファーを主人公にして、ルシファーによる神への復讐と再起を図る物語なのです。

堕天使ルシファーといえば地獄の魔王サタンの名でも知られていますが、作中では神という絶対的な存在に対して自由を求めて戦う英雄として描かれています。

堕天する前のルシファーはすべての天使の中で最も美しいといわれる存在でした。天使9階級の頂点であり6枚の翼をもつ熾天使(セラフィム)に属しながらも、唯一12枚の翼をもつ大天使として最強の天使ミカエルと並び称される存在だったのです。

はじめてルシファーの存在が指摘されたのは西暦230年ころだとされています。ギリシアの神学者オリゲネスがこれまで知られていなかった悪魔の存在を指摘したのです。『旧約聖書』(イザヤ書)には「お前は天から落ちた明けの明星」という記述があります。ルシファーという名前はこの「明けの明星」を意味するルキフェルが語源とされています。(そのためパズドラではスキル名も「明けの明星」となっています)

また、『新約聖書』(ルカ福音書)には「サタンが雷光のように落ちるのを見た」とあります。そのため、悪魔の統括者として知られていたサタンがルシファーでると考えられたのです。そして、後の神学者アウグスティヌスの著書『神の国』にもルシファーは登場したことで、キリスト教徒にとって堕天使ルシファーの存在が明確にされていったのだと思われます。

堕天使ルシファーは「7つの大罪」の1つ「傲慢の罪」に対応する悪魔ともされています。「神と対等になる」「神に代わる存在」という思想ゆえに「傲慢」の象徴とされたのです。ダンテの『神曲』では地獄の最下層(コキュートス)で氷漬けにされて登場しています。ルシファーは魔王サタンとして3つの顔をもつ恐ろしい姿になっていて、イスカリオテのユダとカエサルを裏切ったブルータスとカシウスをかみ砕いているのです。

物語の舞台は『旧約聖書』の冒頭にあたる「創世記」の前日譚という体裁となっています。作中にはさまざまな天使や悪魔が登場することから、聖書の世界観とミルトンの悪魔観が合わさった作品となっています。

悪魔とはもともと神に仕える天使でありながら地獄に堕とされた堕天使のことを指します。また、古代オリエント世界で信仰されていた神々が悪魔に貶められた場合もあります。

そうだ、あの蛇、まさしくあの地獄の蛇であった

嫉妬と復讐の念に燃え、狡猾な陰謀をもって人類の母を唆したのは…

『旧約聖書』では原初の人類アダムとイブがエデンの園で暮らしていたところ、神に禁止されていた知恵の実を蛇に唆されて食べてしまい楽園を追放されます。そのため、アダムとイブは原罪を背負うことになってしまったとされています。この地獄の蛇こそが『失楽園』の主人公である堕天使ルシファーなのですが。

なぜ、高位の天使であったルシファーが地獄の魔王サタンとなってしまったのか?物語はここから始まるのです。

2-1 大天使ルシファーの堕天

大天使ルシファーは神と戦うことで神と対等な存在になろうと考えました。きっかけは、神が自分の「独り子」を天使の長につけると宣言したことにありました。これにルシファーは嫉妬して反逆を企てたというわけなのです。そして、天使の3分の1を味方にして神との戦いに挑むことになるのです(なかには「7つの大罪」における「強欲の罪」に対応する悪魔マモンもいました)。

しかし、全能なる神の前にルシファーたちは敗北して、その軍勢は地獄の深淵まで堕とされることになったのです。その距離「地球からそれを取り巻く宇宙の最外廓に至る距離の三倍」とされています。

ルシファーの堕とされた地獄は炎につつまれた世界で天界とは全く違う場所でした。奈落の底ともいえる場所でルシファーは堕天使ベルゼブブに出会います。「7つの大罪」における「暴食の罪」に対応するハエの王の悪魔としても有名です。もともとは智天使ケルビムに属していたとされる者でしたが、その由来は古代オリエント世界で信仰されていたバアル神が悪魔に貶められたものです。これが「やがてパレスチナで名をはせベルゼバブと呼ばれた者」になるのです。

かつての同胞と出会い堕天使したことを嘆く者のルシファーは宣言するのです。

一敗地にまみれたからといってそれがどうだというのだ?

すべてが失われたわけではない

不撓不屈の意志、復讐への飽くなき心、永久に癒やすべからざる憎悪の念

降伏も帰順も知らぬ勇気があるのだ!

これにベルゼブブは感嘆してほかの堕天使たちもルシファーに共鳴していきます。豊穣の神ながらも殺戮の邪神といわれたモーロック、地中海地方で信仰されていた女神アスタルテをもとにした悪魔アスタロト、天使の中でも悪徳を愛するベリアルなどいずれも有名な悪魔たちが集いました。いつまでもこのような深淵に閉じ込められたままでよいのかと悪魔たちを鼓舞して、ルシファーは自由を求めて戦うことを宣言するのです。そして、神が新たな世界と種族を創造するのではないかという噂を聞いたことからそれを自分たちのものとすることを企てるのです。

ルシファーは万魔殿パンデモニウムを建設させてそこで神と戦うための会議を開きました。こうして、堕天使ルシファーは悪魔の王である魔王サタンとよばれるようになるのです。ヘブライ語におけるサタンとは「神に敵対する者」という意味であり、『旧約聖書』においてはダビデを堕落させるなど何度も登場する存在です。また『新約聖書』においても山上の垂訓のようにイエスを惑わす存在として登場します(ルカ福音書ではイスカリオテのユダに入り込んでイエスを裏切らせたとされています)。

パンデモニウムでの会議においてルシファーは「最善なのは公然たる戦いか、詭計による奇襲か、意見のある者は申し出よ」と言います。(みんなの意見をきちんと聞くルシファーは傲慢というより理想の上司では…!?)

まず、モーロックは「詭計は得意ではないので公然なる戦いをするべき」と言います。すると、ベリアルも「私も公然なる戦いを支持する」と同調します。しかし、強欲の悪魔マモンは「戦うことも大切だけど、安全第一じゃない?」と言います。先の戦いで神の軍勢に対する恐怖心を抱いた多くの堕天使たちはこれに同調するのです。そのため、天国に匹敵する地獄の王国を建設すればよいのではないかと考えていたのです。

ここで、ベルゼブブが「地獄は安全な場所ではない」としたうえで、「戦わずして神への復讐を果たすことのできる計画がある」と言うのです。それが、神の新たな被造物である人間を堕落させるということです。これに堕天使たちは賛同することにしました。そして、この計画をもともと考えていたルシファーが実行することになるのです。人間界までの道は危険なので「この計画に他の者が参加することは許可しない」と宣言して地獄の英雄としてルシファーは単身で危険な旅に出ることにしたのです。

2-2 堕天使ルシファーの決意

ルシファーは人間界への遠征の途中で地獄の境界線となる壁にぶつかります。この壁をぬけるための門はかなり厳重なものとなっていて、銅製の三重の門、鉄製の三重の門、そしてダイヤモンド製の三重の門となっているのです。

この門の両側には2人の門番がいるのですが、1人は上半身が美しい女性で下半身は鱗に覆われた蛇の姿をした妖女、もう1人は影のように実体がない身体をした槍をもつ者でした。

ルシファーが門を抜けようとすると影のような門番は威嚇するのですが、妖女が仲裁に入ってなんと自分たちがルシファーの子であることを告げるのです。妖女の名は「罪」であり影の名は「死」でした。「罪」はかつてルシファーが神への反逆を企てた時に起きた頭痛から生まれました。「罪」はルシファーが地獄に堕とされたのと同時に深淵へと落とされていたのです。そして、地獄の門の鍵を渡されて永久に閉ざす役割を与えられていたのです。

また、「死」は「罪」とルシファーの間の子でもありました。天界にいた時に美しい女神であった「罪」に魅了されて子を宿すことになっていたのです。ルシファーは神が創造した新たな世界を破壊する目的を2人に告げると「罪」はよろこんで地獄の門を開放することにしたのです。門を抜けるとそこには時間も空間もない永遠の無秩序といえる世界が広がっていました。そこで魔神デモゴルゴンやオルクス、その世界を統べる「混沌」や「夜」などの王と深淵の住人「混乱」や「不和」に出会います。

ルシファーはスパイとして来たのではないと説明したうえで「混沌」から地獄をぬける道を教えてもらうことで深淵からの脱出に成功するのでした。そして、いよいよ神が創造した宇宙の最外廓まで到達しました。宇宙の最外廓は『神曲』でも描かれていたように原動天とよばれる場所であり、古代から中世にかけての世界観にならって宇宙は階層構造をもつものとされたようです。

ルシファーは宇宙に入ったところで黄金の冠をかぶった天使と遭遇するのです。それはかつての同胞でもある四大天使の1人ウリエルでした。そこで、ルシファーは天使に変身をしてウリエルに楽園の場所を尋ねるのでした。天使による偽善を見破ることができるのは全知全能の神だけであったことから、ウリエルはルシファーの嘘を信じて正直に楽園の場所を教えてしまうのでした。(偽善は神が黙認する唯一の悪とされていた)

地獄を脱出して長い旅路を経てルシファーはとうとう人間の世界までやってきました。はじめに降り立ったのは「ナイファティーズ」という山の頂上でした。(現アルメニアとアッシリアの境界にあるタウルス山脈のこと?)

そこからエデンの園を見た時にルシファーは激しく感情を揺さぶられることになるのです。私はなぜ神に対してあのような反逆を行ったのであろうか、神は私を最も輝けるものとしてつくり、恩恵をさずけてくれたのに…境遇への憤怒、無謀さへの絶望、神への恐怖、そして反逆への後悔…堕天使ながらも人間のように葛藤するルシファーの姿がありありと描写されています。しかし、三度も顔面蒼白になりながらも神の愛こそが自分を苦しめる元凶であり、呪いの根源であると思い至ることで後悔を捨てて神への反逆を決意するのです。

悪よ、お前が私の善となるのだ!

2-3 エデンの園

エデンの園に侵入したルシファーはその光景のあまりの美しさに心を奪われてしまいます。それから、鳥に変身して楽園の中で最も高い樹に止まることにしました。これがエデンの園にあるとされる有名な「生命の樹」です。そして、とうとう人間の姿―つまり、アダムとイブを発見するのです。

ルシファーはさまざまな動物の姿に変身して2人の会話を盗聴するのでした。アダムとイブは神から言いつけられた楽園の禁忌―知恵の樹と生命の樹になる実だけは食べてはいけないという掟について話していたのです。

これを聞いたルシファーはアダムとイブにこの禁忌を破らせることを画策しました。しかし、ウリエルがエデンの園に侵入しようとするルシファーの姿を目撃していたのです。実は、ルシファーはあまりに動揺していたので天使への擬態がとけてしまっていたのです。

ウリエルはエデンの園で警備にあたっていた同じ四大天使ガブリエルに相談しました。ガブリエルは警備隊に所属する若い2人の天使に反逆者を見つけるように伝えます。2人の天使はアダムとイブが眠る場所を見張るようにしていたところ、イブの耳元でヒキガエルに化けた侵入者の姿を発見しました。そして、天使が槍でヒキガエルをつつくとそこに凶悪な魔王の姿が現れたのです。そこにガブリエルがやってきて反逆者がルシファーであることを見破るのです。

ガブリエルがなぜ地獄を抜け出して楽園を脅かそうとするのかと問うとルシファーは「苦痛を愛する者などいると思うか?呪われた地獄に落ちたとしても抜け出さないものなどいると思うか?」と答えます。

しかし、2人がいまにも激突しようとしたその時、おとめ座とさそり座の間に輝く天秤が動いたのです。この天秤は神が創造した全てのものを測定することができるのですが、神はルシファーがここで争うのかこの場を離れるのかを秤にかけたのです。天秤はルシファーが離れる方を示したので、これを見たルシファーは楽園を離れることにしたのです。

翌朝、イブは目をさますとおそろしい夢を見たことをアダムに相談するのです。それは耳元でささやく優しい声で目を覚まして散歩に出かけるというものでした。そして、知恵の樹の傍らに天使のような者がいて語りかけるのです。

こんなに実がなっているのにこれを食べようとする者は誰もいないのか?知恵とはそれほどまでに軽蔑されているものなのか?

そして、その天使は知恵の樹の実を口にしてイブにも食べるよう誘惑するのです。イブは夢の中でその果実を口にしてしまったとアダムに告げるのです。アダムはイブをなぐさめて、神をたたえる祈りと仕事を始めるのでした。

なぜイブがこのような夢を見てしまったのかといえばもちろん、先ほどルシファーがヒキガエルになって耳元で囁いていたせいなのです。神は2人の様子を見て四大天使ラファエルにアダムとイブのもとへ行くように告げます。そして、ルシファーの企みについて忠告するように命じました。

ラファエルはアダムとイブの境遇や2人にせまる危険について話をするのですが、アダムはなぜこんなことになっているのかをラファエルに問うのです。ここで、ラファエルはかつて神に逆らったルシファー反逆の顛末を語ることにしたのです。

2-4 天界大戦

ある日、神がすべての天使を招集して「独り子」を天使たちの長にすると告げました。神が生んだこの独り子こそが、イエス・キリストなのです。神の右手に座る独り子に逆らうことは神に逆らうことと同義であり、独り子に逆らえば地獄の底に堕ちることになるとしたのです。

多くの天使が独り子のことを称える中でルシファーだけはこれに納得しませんでした。全ての天使の中でも最も美しく高位の存在であったことから、独り子が救世主であると宣言されたことに嫉妬や憤怒の感情をもつようになるのです。そのため、ルシファーは神への反逆を決意することにしたのです。

腹心の部下たちを扇動して天使たちの3分の1を味方につけることに成功しました。これに対して神に忠実な熾天使アブディエルはルシファーのことを非難します。ルシファーのことを説得しようとするも聞く耳をもたないので、

「貴方が堕落する運命を見た。不幸な仲間が貴方の詐欺に騙され罪と罰が疫病のように蔓延するのを目にした。」

このように告げてルシファーの軍勢を1人離れて神のもとへ戻っていったのです。こうして、とうとうルシファーの軍勢と神の軍勢が激突することになるのです。神は四大天使ミカエルとガブリエルに戦場へ赴くように命じました。ミカエルは総指揮官でありガブリエルはミカエルに次ぐ力をもっていたとされています。

いよいよ、空を覆う程の神の軍勢と地を埋め尽くす程のルシファーの軍勢が対峙しました。堕天使の軍勢の最前線にダイヤモンドの鎧と黄金の武具をもつルシファーが立ちます。そして、ミカエルの支持で天使がラッパを吹いたその時、両軍の激闘が始まったのです。

戦いが膠着状態になる中、ルシファーとミカエルが激突することになりました。ミカエルは懲罰の剣を一気に振り下ろすとルシファーの剣を真っ二つにへし折りました。そして、ルシファーはミカエルの追撃を受けて脇腹をえぐられてしまうのでした。苦痛と屈辱に怒るルシファーでしたが堕天使たちによって戦場から連れ出されました。

いっぽう、ガブリエルは獰猛な堕天使モーロックを制圧して、ウリエルとラファエルが巨大な堕天使アドラメレクとアスモデウスを討伐しました。こうして、神の軍勢は優勢をたもつことになるのですが、戦いが2日目になると戦況が一変しました。

ルシファーの軍勢は夜の間に強力な大砲を作り戦場に投入したのです。多くの天使が倒れていく中、堕天使ベリアルはルシファーの勝利を確信しました。

しかし、戦いが3日目に突入したところでいよいよ神の独り子が参戦してきたのです。そして、独り子は天使たちに「神の怒りが注がれるのを見ていればよい」と告げました。独り子は戦車に乗って戦場へ向かい右手で掴んだ雷霆を堕天使たちに投げつけるのです。ルシファーの軍勢はあっという間に倒されてしまいました。

堕天使の軍勢は天の境界にある水晶の城壁まで追い詰められてしまいました。その時、突然その城壁が開いて堕天使たちは深淵へと堕ちてしまうのでした。こうして、戦いは神の軍勢の勝利に終わりました。

2-5 原罪

ラファエルは神がルシファーたちを天から追放した後に新たな宇宙とそこに住む生き物を創造することを決めたとアダムとイブに告げます。そして、6日間かけて新しい世界をつくったことを説明したのです。これが『旧約聖書』における「天地創造」であり、2人が住む楽園こそエデンの園なのです。

ラファエルは最後にアダムとイブに語りかけるのでした。お前を罪に陥れようとする誘惑を退けなさい、と。

しかし、ルシファーは再び楽園に戻ってきました。そして、神が作り出した生き物の中で最も狡猾で賢いとされる蛇の体に入りました。最も美しいとされた天使が地を這う醜い動物になるものの言い放ちます。

「野心と復讐のためであればどのようなものに身を堕としても意に介することはない!」

ルシファーはイブの元へ行き人間の言葉で語りかけました。私はもともと下等な生き物でしたが美しい果実を食べたことがきっかけで言葉と理性をえることができたのです。イブはその果実がどこにあるのかと尋ねたので蛇は知恵の樹の場所へと案内しました。

ところが、イブは神からこの樹の果実を口にすることは禁止されていることを告げます。これに対して、蛇は「これを口にした私は生きているので食べても死ぬことはありません。これは善と悪の知識を与える果実であり、知識をえることのどこが悪いのか」と唆します。そして、とうとうイブは知恵の実を手に取って食べてしまうのでした。

禁忌を犯してしまったイブは不死から定命の存在になってしまったことから、愛するアダムと死別してしまうことを恐れるのでした。そのため、アダムにも知恵の実を食べるよう相談するのです。アダムは驚くものの「お前と同じ運命を歩み審判を受けよう」と知恵の実を食べました。これが人類の最初の罪―生まれながらの原罪を背負うことになってしまったのです。

『創世記』の記述にもあるように、知恵の実を食べた2人は裸でいる羞恥心を感じました。そして、イチジクの葉で体を覆うのですが恥ずかしい思いは晴れませんでした。アダムは禁忌を破ったイブのことを責め立て、イブもアダムを罵るようになるのです。

2-6 失楽園(Paradice Lost)

計画を成就させたルシファーは地獄への帰路についていました。それを知ったルシファーの子である「罪」と「死」は、人間界と地獄をつなぐ巨大な橋を建造していました。そこでルシファーのことを出迎えると楽園へ行き人間界を支配するように命じられました。

ルシファーは地獄の万魔殿へ帰還すると堕天使たちに向かって計画の成功を宣言しました。しかし、堕天使たちからの称賛はなく不気味な音だけが響いてくるのです。ルシファーは不思議に思って見渡すとなんと堕天使たちが蛇の姿に変えられていたのです。

それだけでなく、ルシファーの体にも異変が起こり始めるのです。その両腕が体にくっついて両足が絡みついて1本になっていくのです。地面に倒れたルシファーはそのまま巨大な竜の姿になってしまうのでした(これが「ヨハネの黙示録」に描かれる赤い竜だとも考えられます)。

神による罰はこれだけにとどまらず地中から知恵の実に似た実のなる森を出現させました。蛇たちは渇きに襲われその木に群がって実を口にするのですがその果実は苦い灰なのです。蛇たちはそれを吐き出すのですがあまりの渇きに再び果実を口にしてしまうのでした。後にルシファーたちは神に許されて元の姿に戻してもらえたといわれていますが、それは年に数日だけのことであったともいわれているのです。

いっぽう、「罪」と「死」は人間界を支配するようはたらきかけていたのですが、神はそれも全部まるっとお見通しだったのでいずれ地獄へ封じることを約束するのでした。神は天使たちから一連の事件の顛末を聞かされて堕天使の侵入は仕方がないとしながらも罪を犯したアダムとイブに対して独り子を遣わせたのです。独り子は神の命に従ってイブに対して妊娠の苦しみと夫が自分を支配するようになること、アダムに対して作物をえるために労働の苦しみをそれぞれ課せました。

そして、神はアダムとイブを楽園から追放することを命じたのです。大天使ミカエルが絶望するイブに対して失ったものは忍耐して諦めることが必要だと優しく諭すのでした。そして、2人に未来のビジョン―神の怒りによる大洪水やイエスの死と復活などを見せるのでした。

ミカエルは智天使の軍団が剣で周囲を焼き払いながら向かってくるところを確認してアダムとイブを楽園の外へと連れ出しました。アダムとイブはかつての楽園を見て涙を流し互いに手を取って歩み始めるのでした。これが原罪を背負った人類の悲しい結末なのです。楽園を手にすること叶わず神の裁きを受けたルシファーと楽園を追放されたアダムとイブ、こうして楽園は失われる(Paradise Lost)ことになったのです。

5 まとめ

今回の動画はジョン・ミルトンの『失楽園』について解説してきました。動画の中では紹介することができなかったこともまだまだたくさんありますので、ぜひ本書を手に取って読んでみてください。

『聖書』のスピンオフともいえる作品でありながら、後世のあらゆるファンタジー作品にも大きな影響を与えたミルトンの『失楽園』。四大天使や数々の悪魔たちの詳細な姿が描かれたことで現代の私たちが想像する天使や悪魔のイメージにもつながっているといえるでしょう。

また、神に反逆した堕天使ルシファーを英雄のように登場させる手法は「ダークヒーロー」が活躍する映画や文学の原型となっていると考えられます。「善と悪」「罪と罰」「自由と服従」―このような普遍的なテーマを『失楽園』を知ることで考えるきっかけにしてください。

中世から近代への転換点となる近世の哲学についてさらに詳しく解説していく予定です。ぜひ高評価&チャンネル登録をして次回の更新にご期待ください。本日の旅はここまでです。

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