【ローマ教皇と#コンクラーベ】聖域で行われる教皇選挙に隠された光と闇とは?カトリック教会の最高位にしてキリスト教の最高権力者=ローマ教皇!

哲学×エンタメ

今回は「ローマ教皇とコンクラーベ」について解説したいと思います。2025年4月21日にカトリック教会のローマ教皇フランシスコさんが逝去されて、翌5月8日には新しい教皇としてレオ14世がコンクラーベによって選出されました。

時を同じくして偶然にも教皇選出に関する映画『教皇選挙』が上映されており、あまり馴染みのなかった「コンクラーベ」という言葉が知れ渡るようになってきました。なぜ、ローマ教皇の交代がこれほどまでに注目されているのでしょうか?

【ローマ教皇と#コンクラーベ】聖域で行われる教皇選挙に隠された光と闇とは?カトリック教会の最高位にしてキリスト教の最高権力者=ローマ教皇!

今回の葬儀には世界160国以上の外交団と25万人をこえる人々が弔問したようです

もちろん、弔問外交という側面がないわけではありませんが、これだけ多くの指導者たちが一堂に会する機会はめったにあるものではありません。(ちなみに、この人はクリスチャンなのになぜか東南アジア外遊という謎ムーブです…)。

ローマ教皇とはどのような存在なのか?上映されている『教皇選挙』がなぜこれほど注目を集めているのか?ぜひ、最後まで動画を見て頂き1つ高い視座から世界を見るための教養を学んでください(そうすれば、もう二度とコンクラーベは根比べなどと冗談を言わなくて済みますよ!)。動画がわかりやすかった場合はぜひチャンネル登録と高評価をよろしくお願いいたします。

1 ローマ教皇とは?

ローマ教皇とはキリスト教カトリック教会の最高位のことです。もともと、キリスト教はユダヤ教の革新運動をしていたイエスの弟子たちによって、イエスの教えが布教されていく中で形成されていった一神教の1つです。キリスト教は迫害されながらもローマ帝国の国教になったことで瞬く間に広がりました。しかし、大きくなったことでさまざまな教義の解釈がされるようになり分裂するのです。

まず、ローマ帝国の西側であるローマ教会を中心とする「カトリック」と東側のコンスタンティノープル教会を中心とする「正教会」に分裂しました。やがて、カトリックの中でも教会の腐敗などを指摘する宗教改革が起こり、ルターやカルヴァンによって「プロテスタント」という宗派ができていくのです。キリスト教に関する詳しい解説はこちらの記事をご覧ください。

カトリックの信徒は世界中に約14憶人いるといわれていることから、ヴァチカンという世界で1番小さい国にいる教皇が世界一の人口をもつインドの国民数と同じくらいの信徒たちのトップにいるのです。また、宗派のちがいはあるものの正教会やプロテスタントとの仲は険悪ではありません。そのため、ローマ教皇はカトリック教会の最高位であるだけでなく、キリスト教の世界全体においても大きな影響力をもっていると考えられる存在なのです。

ローマ教皇とはもともと使徒ペテロの後継者であるローマ教会の司教を指していました。ペテロはイエスの12人の直弟子の中でも一番弟子とされており、ローマで布教をした後に暴君ネロ帝の迫害にあって殉教したといわれています。

ペテロはイエスが捕まった時には3度に渡って知らんぷりをした薄情者でしたが、イエスの復活を目の当たりにして悔い改めて熱心に布教活動に取り組みます。そして、ネロ帝の迫害にあってローマを脱出しようとした際には、イエスの幻影に諭されてきちんとローマにもどって殉教までするようになるのです。

ローマ教皇がいるサンピエトロ大聖堂はペテロの墓の上に建てられた教会であるため、ペテロはローマ教会の初代教皇とされるようになるのです(サンピエトロ=聖ペテロ)。

中世においてローマ教皇は絶大な権力をもつようになります。11世紀のローマ教皇グレゴリウス7世は神聖ローマ皇帝ハインリヒ4世を破門しました。これは「カノッサの屈辱」といわれ、きっかけは聖職叙任権をめぐる対立でしたが、ハインリヒ4世は厳冬の雪の中を裸足で3日間にわたって赦しを請うたのです。

また、ウルバヌス2世は1095年のクレルモン宗教会議で十字軍運動を提唱しました。ヨーロッパ各国の国王や諸侯はこれに従ってエルサレムを奪還する軍隊を派遣したのです。そして、13世紀の教皇インノケンティウス3世は「教皇は太陽、皇帝は月」と言いました。「太陽によって月が照らされるように、皇帝も教皇の威光を受けている」という意味です。

しかし、19世紀になってイタリア王国が建国された際に教皇領は没収されてしまいます。そして、教皇の居住するヴァチカン宮殿のみが教皇領となるのです。時の教皇ピウス9世は「ヴァチカンの囚人」と称して軟禁状態になったのです。ここから、ローマ教皇とイタリア政府は長らく対立するようになるのですが、第1次世界大戦後にムッソリーニが登場したことで教皇と政府は和解しました。

ムッソリーニはヴァチカンを教皇が治める特別な場所として独立国であることを認め、イタリアはカトリックを国教とする旨を伝えたことで和解したのです(ラテラノ条約)。つまり、ローマ教皇はヴァチカン市国の元首でもあるということなのです。

ヴァチカンは面積0.44㎢(ディズニーランド以下)の世界最小の国であるものの、全世界に数十万人といわれる聖職者による情報網をもっているとされています。(アメリカやロシアのような大国にもひけをとらない情報収集力ともいわれています)。人口は数百人でローマ教皇を守る衛兵が100人程度活動をしています。現在も、中世以来のスイス人傭兵として雇われた伝統を継承してスイス人が務めています。(ちなみに、この衛兵のカラフルな制服はミケランジェロのデザインといわれています)。

さいごに、ローマ教皇の名前は教皇に選出された時に自ら決めることになっています。これは11世紀頃からの習慣でそれまでは自分の名前をそのまま使っていました。しかし、それ以前にも異教に由来する名前の場合は自ら改名する教皇がいたのです。最初の改名者は第56代ヨハネ2世(在位533年~538年)です。メルクリオとよばれていましたが、これは古代ローマの異教の神の名前だったのです。また、第130代ヨハネ12世(在位955年~964年)も改名しています。オッタビアーノとよばれていましたが、これは過去のローマ皇帝の名前と同じでした。大きな使命を受けた時に改名することは使命に対する忠誠を示すことにもなります。

初代教皇ペテロもはじめはシモンとよばれていたことにも由来するのかもしれません。そんなローマ教皇が死去すると次の教皇を選出する必要があるのですが、そのローマ教皇を選出する教皇選挙のことを「コンクラーベ」というのです。

2 コンクラーベと映画『教皇選挙』

コンクラーベは教皇の死後15日程度の目安に行われることになっています。80歳未満の枢機卿(71か国135名)がヴァチカンに集まって話し合いをします。カトリック信者の男性なら誰でも候補にはなりうるのですが現実的には枢機卿です。

「え、男性のみ?」と思った方はぜひこんなことも考えてみてください。国連が日本に対して「天皇は男性のみとされるのは差別である」と介入してくるのですが、それならばローマ教皇の選出方法にも介入するべきなのにそんなことはしません。ロシアによるウクライナ侵攻は非難するのにイスラエルによる攻撃は非難しない、このような現実が何を意味しているのかを考えるきっかけになるはずです(もちろん、当チャンネルは男女差別やロシアの侵攻を肯定しているわけではありません)。

枢機卿とは教皇が任命するカトリック教会における教皇の最高顧問のことです。重要な案件に対して教皇を直接的に補佐することのできる枢機卿団を構成したり、教会全体に関わる日常的な職務についても教皇を補佐したりしています。その枢機卿が外部との連絡手段を一切遮断してシスティーナ礼拝堂の中で決めるのです。

コンクラーベとはもともとラテン語で「カギをかける」というような意味であり、密室選挙の理由は13世紀に教皇がなかなか決まらなかったことに起源があるそうです。新教皇は投票によって決まるのですが枢機卿の3分の2以上の得票で決定されます。新教皇が決定したかどうかはシスティーナ礼拝堂の煙突から出る煙の色でわかります。投票に使った用紙を燃やした煙の色が白で鐘が鳴れば新教皇が決まったことになります。しかし、3分の2以下の得票の場合は煙の色が黒となって再投票になるのです。

選挙は初日の午後に1回、2日目と3日目の午前と午後には2回ずつ行われ、決まらない場合は1日あけてまた7回くりかえすと決められています。そして、どうしても決まらない場合は上位2名の決選投票によって決められるのです。今回のレオ14世は2日目の午後5回目の投票によって決まったようです。

数時間で決定した教皇がサンピエトロ大聖堂を改築したユリウス2世なのですが、その次の教皇が宗教改革のきっかけをつくったレオ10世でもあるのです。

現在(2025年5月)上映されているコンクラーベを扱った映画『教皇選挙』の中で、主人公ローレンス枢機卿はコンクラーベを取り仕切る役割を担うことになるのですが、密室の中で派閥争いや謀略の数々が起こりスキャンダルまで暴かれることになるのです。

登場する枢機卿たちは現実と同じくさまざまな価値観をもっています。ある候補者は同性愛者を投獄することに賛成している「保守派」であったり、前教皇と同じように弱者の味方という立場の「リベラル派」であったりします。ある映画評論家の方は「10分に1回は驚く展開がある」と語っていたそうですが、新しい事実が次々と明らかになって選挙戦の勢力図が刻一刻と変化していく展開はまさにミステリーとサスペンスが組み合わさった極上のエンターテインメントといえます。

実際のコンクラーベで行われていることもかなり忠実に再現されているようです。教皇が死去した際に偽造を防止するため破壊される「漁夫の指輪」や、使徒座空位の状態における前教皇の居室が赤いリボンで封印される場面などいろいろです。

予告編では「まともな人間は教皇職など望まない、危険なのはそうではない者たちだ」「選挙は戦争じゃない」「いや、戦争だ!」という場面が流れています。誰も知ることのなかった聖域の中で行われる教皇選挙の虚実―これはただのフィクションなのか触れてはいけない闇の真実なのか?予習や事前知識がなくても観ることのできる極上のミステリーサスペンス映画です。公式サイトには用語解説や選挙の仕組みも掲載されていますので参考にしてみてください。

3 前教皇フランシスコと新教皇レオ14世

前教皇フランシスコはアメリカ大陸から初となるアルゼンチン出身の教皇でした。また、イエズス会に所属する初めての教皇でもあり新しい取り組みをしてきた教皇でした。たとえば、多様性を重視するという観点から同性カップルを祝福しました。キリスト教の歴史では長らく同性愛は厳罰の対象となっていたことからも異例のことです。

また、環境問題や貧困問題、移民問題などに対しても積極的な発言をしています。「難民は数ではない。顔や名前、それぞれの物語をもった人間だ」「壁が解決したものは何1つない。だから橋を架けなければならない」。これらは注目された発言の1つであり常に弱者の見方という立場をとったのです。

2019年には来日して広島や長崎を訪れて核廃絶と平和への訴えもしました。ちなみに、ラテン語で「教皇」のことを「ポンティフェクス」といいます。「ポンス」が橋で「ファキオ」がつくるという意味であることから、教皇という名前の起源は「橋をつくる」という意味をもつことになるのです。さらに、イエスという存在が「神から人類に架けられた橋である」という意味も込めて、フランシスコ前教皇は前述のような談話を発表したといわれています。

現トランプ政権のバンス副大統領は移民排斥政策を正当化するために、ラテン語の「ordo amoris」(愛の順序)という神学の基本概念を持ち出しました。これは神の愛には順序があって、まず神を愛した後に隣人を愛しつつその範囲を広げていくという意味なのですが、バンスは隣人(国民)を大切にするために移民は後回しでもいいとしたのです。

これに対して、フランシスコ前教皇は「ordo amoris」という概念は「よきサマリア人のたとえ」をもとに理解するべきであると説きました。これはイエスが「私の隣人とは誰ですか?」と尋ねられた際に、この説話は境界や垣根があってどこからどこまでが隣人なのかと考えるのではなく「境界や垣根を越えて隣人になっていくことが大切」と説いたことに由来しています。つまり、隣人=国民であり移民は排斥してもいいという理由にはあたらないということです。バンス副大統領は神学の概念を部分的に持ち出してそれらしく正当性を語ったのですが、フランシスコ前教皇はそれを完膚なきまでに反論したのです。(バンス副大統領の浅はかさとフランシスコ前教皇の信仰を深さが対比されています)

名前の由来ともいわれる13世紀イタリアのアッシジのフランチェスコは、修道会の始祖であり貧しい人たちのために尽力した人であったといわれています。小鳥に説教をした逸話もあり最も人気のある聖職者の1人ともいわれています。実は「フランシスコ」という名前を名乗った初めての教皇でもあったのです(そのため、フランシスコ〇〇世とついていません)。

ローマ教皇とはそもそもイエスの代理人ともいえるペテロの後継者であることからも、その役割は信仰の遺産を継承していくことであると考えることができます。イエスがもともと弱者に寄り添って「神の愛」を説いていたようにフランシスコ前教皇もそのような姿勢を体現していたとみることもできます。以上のことからフランシスコ前教皇は非常に寛容な人物だったと考えることができる一方、政治的にはグローバリストの傀儡だったのではないかと考えることもできます。

コロナの時には一部の教会を閉鎖するなど科学的な対応を促進することもありました。ほかにも、新たな枢機卿を任命して前回の48か国から今回は71か国まで増えています。フランシスコ前教皇を理想主義的な人格者であったと考えるのか、信者を増やすためのグローバリストの傀儡であったと考えるのかはあなた次第なのです。

第267代の新教皇はレオ14世(ロバート・プレボスト枢機卿)に決まりました。アメリカ出身ながらペルーで約20年を過ごして、貧しい地域で信仰を説いたり神学校で教授をしたりしていました。やがて、フランシスコ前教皇によって枢機卿に任命されることになるのです。

レオ14世という名前は資本主義に警鐘をならして、労働の権利を擁護したレオ13世に由来していると考えられています。前教皇は改革派とされていますが新教皇は中道派といわれています。

まず、環境問題や移民の保護に対しては非常に熱心に取り組む姿勢をとっています(この点はフランシスコ前教皇と同じ路線といえます)。いっぽう、ペルーでジェンダー教育に反対したり女性の助祭には反対したりしています。(この点はかなり保守的な側面があるといえます)。そのため、その中間地点であるから中道派といわれているのです。

アメリカ出身の教皇であることからトランプ大統領との関係にも注目が集まっています。国際政治の舞台でどのようなふるまいのするのかぜひ注視してみてください。

4 まとめ

今回は「ローマ教皇とコンクラーベ」について解説してきました。動画の中では紹介することができなかったこともまだまだたくさんありますので、ぜひ実際に映画『教皇選挙』を観に行ってみてください。

「哲学は宗教にどんな関係があるのか?」「哲学も宗教も現実には役に立たない」そんなふうに思われるかもしれませんが哲学も宗教も実はとても面白いんですよ。今日の世界の共通ルールの多くは西洋中心に決められたものが多く、そこにはキリスト教の影響が色濃く反映されているのです。

キリスト教は西洋文化の根底にあり2000年の歴史と20億人の信徒をもっています。だからこそ、キリスト教をはじめとする宗教への理解は必須の教養となるのです。以前の動画でポール・ゴーギャンのこの長いタイトルの絵画―『我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか』を紹介しました。「世界はどうしてできたのか?」「人間はどこから来てどこへ行くのか?」この最も根源的な問いについて考えてきたのが哲学と宗教なのです。

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